医師法とは? 医師の法律を目的から違反まで分かりやすく解説
1.【医師法では何を取り締まっているの?】
昨今の事件では、「医師法」に違反した事件のニュースをよく聞くことがあります。明らかに犯罪を取り締まるための法律と違い、「医師法」が一体どんなことを定めた法で、どんな違反を規定しているかはあまり知られていません。そこで、一見では難しいと思われる医師法を一般の方にも分かりやすく、実際に起こったケースなどを踏まえて、医師法について、
・目的
・構成
・問題となったケース
・医師法違反
を中心にご説明いたします。
2.【医師法の目的】
医師法とは、1948年に成立・施行された医師の職務、免許、業務等を定めている法律です。例えば、医師以外が医業を行ってはいけない等と基本的な点から、医師国家試験制度や診療録と呼ばれる、医師によるカルテの記録の保存期間と実務に関わることまで全般に関係しています。また、医師法違反があった際の具体的な罰則が定められていることも特徴となっています。
3.【医師法の構成】
医師法は、次の第1~第6章と、さらに経過規定・施行期日などを定める附則によって構成されています。
第1章 1条 総則・目的
第2章 2条~8条 医師免許
⇒免許医師国家試験の必要や、取消の事由について
第3章 9条~16条の1 試験
⇒医師国家試験の目的や受験資格など
第3章の2 16条の2~16条の6 臨床研修
⇒臨床医になるためには、2年以上の研修を必要とする旨や、その修了登録証について
第4章 17条~24条の2 業務
⇒医師以外が医業を行ってはいけない旨、診療に対するルール(処方せんの交付等)など
第5章 25条~30条の2 医師試験委員
⇒医師国家試験等の事務を行う医師試験医院について
第5章の2 30条の3 雑則
⇒行政庁として行う処分等が地方自治法に規定する法定受託事務である旨など
第6章 31条~33条の3 罰則
⇒刑罰の根拠となる事由等について
⇒(参照)厚生労働省法令等データベースサービス 医師法
全体的に医師にまつわることを中心に資格や責務等を規定しています。さらに「医師法施行規則」では医師法で規定されている医師免許や行政処分を受けた者に必要とされる再教育研修などについて詳細を規定しています。
例えば、医師国家試験に必要な願書に添えるべき書類を写真の大きさまで定めていたり、医師免許の交付や書き換えに必要な書類や手数料などです。
一方、病院等の医療機関に関して定めている「医療法」とは響きが似ているものの定める範囲は異なります。
・医療法の範囲・・・病院における医師数の確保、病院・診療所等の医療提供施設の分類、医療事故調査など
・医師法の範囲・・・医師国家試験、医師免許の交付について、医師の業務、免許取消事由など
医師法の方が、医師個人に関わる法律のため、医師の事件があった際にニュースで耳にする機会が多いと言えるでしょう。
4.【問題となったケース】
医師法も移りゆく時代に合わせて、事件などによりその問題点が議論されることがあります。最近で問題になったことがある医師法についてご紹介します。
4-1.医師法21条-異状死の範囲について-
医師法21条とは、
「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」
と規定されています。
また、違反の場合は同法33条の2により、50万円以下の罰金刑も定めています。つまり、これは「異状があった場合は24時間以内に警察に届け出ないと刑事罰が科される」と言うことですが、何をもってして「異状」とするか明確でないため、問題となっています。元々の立法目的は、何らかの犯罪などに巻き込まれた死体等の場合に、犯罪捜査の手がかりとなりえるため医師に届け出るよう定めていると言われています。例えば、明らかに殺人の死体である場合は、「異状」となります。しかし、手術中になくなった場合は、それが元々治療中の病気・怪我が原因か、何か重要な医療的な過失致死によるものかが判断がつきかねる場合が多々あります。
1999年には「都立広尾病院事件」と呼ばれる、手術後経過も良好であったた女性の患者に対し、看護師が誤って別の患者用の消毒液を注入し、さらに注射器内の薬液を確認せずに患者に消毒液を点滴した事件がありました。まもなくこの患者は亡くなりましたが、死亡後24時間以内の警察への届出がなかったため医師法21条の違反とされましたが、看護師は最終的に業務上過失致死となりました。
また、2004年に「福島県立大野病院事件」と呼ばれる、帝王切開を受けた女性が死亡した事故があり、異状があるにも関わらず警察への届け出がなかったことで医師法21条違反として逮捕されこととなりました。しかし、調査の結果、法医学的に普通と認められる状態=異状ではない状態での死亡と判明し医師は無罪判決となりました。このように、異状と呼ばれる範囲が不明確にも関わらず、異状死の届け出の有無で逮捕される事件が発生したため「異状」を調べるための中立的な第三者機関として2015年10月に医療事故調査制度が施行されました。これは、制度の対象となりえる「予期せぬ死亡」が発生した場合に遺族への説明等と併せて、医療事項調査等支援センターに報告し、異状であるか調査を実施するものです。
さらに、日本医師会は2016年2月24日に、医師法21条で定める届け出を「犯罪と関係ある異状」に変更および罰則の削除を求める改正案を公表しています。
4-2.医師法17条-医業とは?-
医師法17条では
「医師でなければ、医業をなしてはならない。」と定めています。
この問題点は、どこまでを「医業」とするかの点です。医師免許を持たないエステサロンによる脱毛行為によってやけどを負った等の被害が多くなったことから、2002年11月に厚生労働省から各都道府県へ「医師免許を有しない者による脱毛行為等の取扱いについて」と言う通知が行われました。その内容では、医師しか行ってはいけない行為として、レーザー脱毛やピーリングの他「色素を入れる行為」としてタトゥー(刺青)も含めている旨を通知しました。実際に、2010年7月に、初めて医師法違反として彫り師が兵庫県で逮捕されています、しかし、タトゥーは医業と別分野の生業であると言う主張が多くあがっており、タトゥーは日本では弥生時代から続くと言われる伝統的な文化としての側面があるため、医師でないと彫れないと言うのは、文化を守る面から疑問をとなえる声もあがっています。
また、タトゥーを除去する施術を行う医師はいても、タトゥーを行う医師はほとんどいないと言われています。そのため、各所では「タトゥーの衛生面を定めたガイドライン」や「タトゥーに特化した資格の創設」などを求める意見が出されています。
4-3.医師法20条-在宅医療の末の死亡診断書の交付-
医師法20条とは、
「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、
又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」
と定めています。
「但し」で始まる一行の解釈について問題となりました。これを分かりやすく直訳すると、「診療した患者が受診後24時間以内に死亡した場合は死亡診断書を
交付してよいが、24時間を超えた場合はこの限りではない」と言うことになります。最後の「この限りではない」の部分が、「受診後24時間を超えたら死亡診断書を書いてはいけない」と誤った解釈されることが多かったのです。現在では、在宅医療が増えてきており、そのため医師の受診後24時間を超えて死亡が確認されるケースも増えてきています。本来では、24時間を超えても、改めて診察を行い、生前中の傷病に関連する死亡であれば死亡診断書を発行することも可能となっています。
しかし、誤った解釈のもと、死亡診断書の代わりに、「死体検案書」が交付される場合が多くなっていました。死体検案書は、死亡診断書と同等の効力を持つと言われるものの、突然死など死因がはっきりしない場合に交付されます。また、死亡診断書は、例えばガン患者がガンによって亡くなるなど、死因がはっきりしている場合に交付されます。なおかつ、医師法21条と混同する医師も多く、24時間以内に警察に届け出なければならないと誤解する医師も多くいました。厚生労働省は、2012年8月31日に、「医師法第20条ただし書の適切な運用について」を通知し、改めて、受診後24時間経過後でも死亡診断書を交付できる旨を周知しました。
5.【医師法に違反した場合】
5-1.罰則について
医師法は医師だけでなく、一般の人も取締りの対象となっています。一例では、医師法17条にあるように、医師以外の人が医業を行えば医師法のもとに罰されます。医師法の第6章ではそのような罰則を設けています。なお、罰則とは、刑罰の根拠を法を定めているものを言います。
①1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、または併科(31条の1および2)
・医師免許を持たないのに医業を行った場合
・医師免許を持たないのに医業を行った上に、医師や類似した名称を用いた場合
②1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金、または併科(32条、33条)
・医師免許停止中に、医業を行う場合
・医師免許試験で、重大過失で試験問題を漏らす、または不正の採点(33条)
③50万円以下の罰金(33条の2)
・医師や類似した名称を用いた場合
・診察をせずに治療、診断書、処方せんなどを交付した場合
・異状死が認められる場合に、24時間以内に警察署へ届け出なかった場合
・患者に投薬の必要があるのに、処方せんを交付しなかった場合
・戒告や医師免許停止があったのに、再研修を受けなかった場合
・戒告や医師免許停止の者が正しい報告をしなかったり、検査を拒んだりした場合
また、法人の代表者やその他従業者も違反行為者と同条の罰金刑が科される場合があります。(33条の3)
5-2.行政処分について
罰則だけではなく、医師法7条では行政処分についても定めています。医師法における行政処分は、行政庁となる厚生労働省により行われる処分です。主に、医業・医師免許に関わる処分が中心となっています。
■処分対象となるケース(7条、7条の2)
①被後見人・被保佐人
②心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの
③麻薬、大麻又はあへんの中毒者
④罰金以上の刑に処せられた者
⑤上記①~③を除くほか、医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者
⑥医師としての品位を損するような行為
この内、①被後見人・被保佐人になった場合は医師免許の取消が行われます。
その他の処分対象に関しては、事件が起こり、判決の確定等刑事手続きが終わった後で、
厚生労働省の「医道審議会」が、医道分科会を開催し、過去の処分を鑑みて決定します。
■処分内容
①戒告
もっとも軽い処分で、医業の停止等は行われません。
②医業停止
3年以内として、医業の停止が命ぜられます。
医師免許の停止とも言い換えられることがあります。
③医師免許の取消
医師免許の取消となるため、一切の医業は行うことができなくなります。
同じく医師法7条にて、医師免許の取消処分があった場合の
再免許についても規定されています。
基本的には、対象者が、「免許取消の理由」に該当しなくなったことと、
医道審議会によって、再免許が適当であると認められた場合のみ再免許が可能となります。
この「免許取消の理由」に該当しなくなったと言うものは、
例えば禁固以上の刑を受けた場合に、刑の執行終了後、罰金以上の刑に処せられないで
10年を経過するなど、法的にその理由が消滅した場合となります。
さらに、取消事由の内、
・罰金以上の刑に処せられた者
・医事に関し犯罪又は不正の行為のあった者
・医師としての品位を損するような行為
の理由に該当の場合は、取り消し処分の日から起算して5年経過後であることも、再免許の条件となっています。
5-3.再教育研修制度
医師法7条の2で再教育研修制度について定めています。再研修は、戒告、医業停止および医師免許の取消を受けた者が再免許を受けようとする際に
必要となっています。再研修の内容は、医師のあるべき倫理に関する「倫理研修」と、医療技術の補足や医療再開の支援等を目的とする「技術研修」になっています。また、研修の形として、対象者全員に講習形式で行う「団体研修」、個々の対象者に応じた「個別研修」、「課題研究」および「課題論文」があります。
例えば、下記のような処分内容と再教育が定められているのです。
・戒告・・・団体研修1日
・業務停止2年以上・・・団体研修2日 + 個別研修120時間以上
再教育研修が修了すると、「再教育研修修了登録証」が交付されます。
「再教育研修修了登録証」は、医業の停止の解除や、再免許の手続きに必要となります。
6.【まとめ】
ここまでをまとめると、次のようになります。
・医師法は医師に関わることのみをまとめた法律
・事件や時代背景などにより、医師法の問題点が議論されることがある
・医師法違反には罰則と行政処分があり、処分があった者には再教育研修制度が必要
このように、医師法は医師だけでなく、一般の人にも関わる社会問題として議論されることもあるのです。医師の方も、当事者として医師業界の問題を考えるきっかけとして、今一度医師法について見直してみることが大切と言えるでしょう。
<参考>日本医師会
尾身さんを応援しています。
尾身茂:https://www.instagram.com/omi.shigeru/?hl=ja
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